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龍の泪 5話

《世界観》
・背景は第二次世界大戦末期(1945年)の3月頃の日本のお話。
・人間の住む世界と龍神達の棲む世界とは同軸。
・竜=西洋竜(翼がある)/龍=東洋龍(蛇のよう)
・人間の姿で生活している。

 

《これまでのあらすじ》
茜陽と一梅の神社に白妙と綿次郎が訪ねてくる。
白妙は、堕落してしまった己の一の弟子の罰として、御水が濁り、目が見えにくくなっていた。
茜陽は何故弟子が堕落したのか聞こうとしたものの、憔悴している白妙の様子に口をつぐむ。
しかし白妙は、人間の戦争に対して龍神が関与してよいものか悩んでいた。それを茜陽は諭し、様子を見るように収めた。
そして、半人前の綿次郎と共に白妙は帰路についた。

数日後、茜陽は神社を訊ねてきた小夏と出会う。
小夏の家族は戦争によって離れ離れになっており、海軍にいる兄の為の御守りを神社に買いに来たのだった。
茜陽は小夏に龍の御守りを渡す。そして、一梅に白妙の所へ薬を届ける様に頼んだ。
白妙の所に薬を届けに来た一梅は、白妙達の棲む川が空襲に遭ったことに気付く。綿次郎は白妙のお陰で無傷だったが、一時記憶障害に陥ることになった。
一方、白妙は空襲の影響で全身に赤黒い痣ができてしまう。一梅が読んだ茜陽が術を使い、痣を半分茜陽に移すことで、白妙は一命をとりとめた。

空襲の痣のお陰で伏せている白妙のもとに、鴇鼠が訪ねてくる。そして、鴇鼠から西洋の竜が攻めてくること、その原因は白妙の元弟子、一雲にあること、そしてそれらに対抗するために勇士を結成することを知らされる。

 

《登場人物》
茜陽(あかねび)♀
龍年齢:約700歳 人年齢(外見):25歳位
神社に棲んでいる。めんどくさがりだが、その神通力はかなり強く、周囲からは恐れられている。
師匠から薬草の知識を受け継いでいる。

赤紅(あかべに)♀
龍年齢:約1000歳以上 人年齢(外見):30歳位
茜陽と白妙の師匠。
長老の一員であるため諫める役目が多いが、心の中は好戦的

一梅(かずうめ)♀
龍年齢:約420歳 人年齢(外見):16歳位
茜陽の一の弟子。生真面目だが、茜陽の事になると盲目になる。
喜怒哀楽が割と激しい。

綿次郎(わたじろう)♂
龍年齢:約300歳 人年齢(外見):14歳位
白妙の二の弟子。正義感にあふれているが臆病で、白妙様は怖い。
弟子になってから日が浅い。

 

《用語》
一雲:かずくも

茜陽♀:
赤紅♀:
一梅♀:
綿次郎♂:

001赤紅:何年ぶりかのう、こうして直接会うのは
002茜陽:間違いなく、130年以上前でしょう。お久しぶりです、お変わりないようで安心しました。アカベニ様。
003赤紅:ああ、お主は相変わらずの様じゃのう。よいことだ。
004茜陽:はい。
005赤紅:先ほど、茶を出してくれたあの子は……。いやはや、件(くだん)の子じゃな?

    ずいぶん健やかに育っているようで、驚いたのう。もうじき独り立ちする頃合いであろ?
006茜陽:……そうですね
007赤紅:堕落しかけていたあの子を、ここまで育てたのは、間違いなくお主のお陰じゃろうな。
    ははっ。……中々二の弟子を採らぬと言われて、心配しておったが杞憂のようで儂は安心したぞ
008茜陽:ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございません。

    しかし、私は弟子を育てるのが聊(いささ)か不得意でして、御師匠様に多大な迷惑をお掛けしていると、

    存じ上げております。申し訳ございません。
009赤紅:別に気にしてはおらぬぞ、そう謝るでない。

    あのような子を育てるには、他(ほか)よりも手塩にかけて愛情を注いでやらぬと難しい。
    共に堕落せず、よくもここまで育て上げたのう。儂は嬉しいぞ。

    ……それに、そのような固い口調は止めなさい。昔のような、気楽な口調で構わぬぞ?お主がその様子じゃと、

    むず痒くて適わぬ
010茜陽:……ありがとうございます、お師匠様
011赤紅:ひとえに、儂の弟子の育て方が、良いものだったのじゃろうな
012茜陽:……
013赤紅:はは、懐かしいなその顔。……それに、この部屋には薬草の良い匂いがしておる。
    ふむ。来客があるのであれば、香を焚いてごまかすのが常識じゃが。ふふっ、お主は相変わらず、

    香の匂いは苦手なようじゃな。
014茜陽:御師匠様が、昔、香に熱をあげていなければ、私はその常識を守っていたでしょうね
015赤紅:ははは!確かに、その様な事もあったのう!しかし、儂が持っていた香を、

    お主が興味本位で全種類同時に焚いた時は、流石に儂も鼻がまがるかと思ったぞえ?
016茜陽:うっ
017赤紅:ははは。……まあ、お主の薬草を煎じる腕の評判は、儂の耳にも届いておる。誇らしいぞ。
018茜陽:ありがとうございます
019赤紅:さて、本題じゃ。……竜胆(りんどう)の根を少し分けてくれんかの?

    ここ最近、竜胆を使う薬を所望する輩が多かったんじゃが。……どいつもこいつも胃腸を病むとは情けない
020茜陽:……竜胆(りんどう)の根ならば、そこの薬棚の下から二番目に入っています。

    本当に必要であるのならば、ですがね
021赤紅:……
022茜陽:私を騙そうとするなんて、馬鹿馬鹿しいにも程があります。

    貴女様の弟子が、そこまで鈍感ではないのはご存知でしょうに。
023赤紅:……ふふ。そうじゃな、お主はいつだって、一筋縄ではいかなんだ。
024茜陽:貴女に育てられれば、誰だってこうなります
025赤紅:まあ、仕方のないことじゃな。……シロタエは、相変わらずか?
026茜陽:……シロタエの体調は、一梅から聞く限りでは、歩けるくらいには回復しているようです
027赤紅:ふむ。それは良いことだ。……お主があやつから授かった痣も、それならば治ったのではないかの?
028茜陽:……なぜそれを知っているんです
029赤紅:なに、心優しいお主の事じゃて。容易に想像がつく。
030茜陽:……
031赤紅:あやつの元には今、二の弟子がおるようじゃのう。様子はどうかの?
032茜陽:叱られながらも、シロタエを支えながら中々頑張っておるようです。
033赤紅:そうか。それならば良いのじゃが。……ふむ、お主はあやつの一の弟子について、何か聞いておるかの?
034茜陽:……いいえ。話したがらない様子でしたので、殆ど詮索しておりませんよ
035赤紅:ほう。お前が詮索せなんだとは珍しいのう。明日は槍でも降るのか。
036茜陽:槍で済めばいいですがね
037赤紅:そうか、あやつは言わなんだか。……じゃがのう、お主も知っておくべきじゃろうと思うんでな。

    ……あやつの一の弟子は、人を殺した。
038茜陽:……
039赤紅:詳しくは儂にもわからぬ。儂がその場に到着したのは、天龍様が裁きを下した後じゃったからのう。

    しかし、恐らく西洋の竜達の、逆鱗(げきりん)に触れてしまったようじゃ。
040茜陽:西洋の!?
041赤紅:儂の推測だがのう。この後儂ら長老は、天龍様に呼ばれておるのじゃが、恐らくその事じゃろうな。
    気をつけろよ、アカネビ。痣をその身に僅かでも移した、お主ならば感じているじゃろうが……。

    空襲で水が濁れば、人の「生への執着」に囚われる。シロタエは、弟子の件に加えて空襲に遭ってしまった。

    本来ならば、天で療養させるのが一番じゃろう。が、このご時世、あやつのような力のある龍をここから離し     

    てしまうと、何が起こるか分かったものではない。

    昔、あの湖で一度言ったが。……お主の弟子は一度堕落している故、負の感情に感化されやすくなっておる。

    目を離すでないぞ。
042茜陽:……わかりました
043赤紅:うむ。……それではな、アカネビ
044茜陽:はい。お気をつけて。

045次郎:こんにちはー!アカネビ様!いらっしゃいますかー?
046一梅:ああ、シロタエ様の所の。御足労、ありがとうございます。今日は無事に辿り着けたようですね。
047次郎:あ、お久しぶりです、カズウメさん。お薬を受け取りに来ました!
048一梅:アカネビ様は現在来客中ですので、こちらへどうぞ。
049次郎:はい、わかりました

050次郎:へえ、すごい!ここはもしかして薬草庫ですか?
051一梅:ええ。そのあたりの椅子にお掛けください。

    ……アカネビ様はお師匠様であるアカベニ様から、薬を煎じる技を受け継いでおり、

    その技に長けております。薬草庫が大きいのは当然の事です
052次郎:でも。同じお師匠様の許(もと)で学んだのに、シロタエ様は、薬をあまり煎じていらっしゃらないような?
053一梅:はあ、そんなことも知らないのですね。

    確かに同じ師の許で学んでいらっしゃいましたが、シロタエ様がアカベニ様から継いだのは、

    呪い(まじない)の方だったと昔聞きました
054次郎:へえ、そうだったんですか!
055一梅:……ワタジロウさん。失礼を承知で一つ、お聞きしたい事があります
056次郎:え?はい
057一梅:貴方の兄弟子、カズクモさんは何故堕落したのですか?
058次郎:えっと……。その
059一梅:私がこの質問をしたのは、他のような、単なる好奇心ではありません。

    アカネビ様が、堕落してしまう切片(きっかけ)になってしまわないよう、気を配るためです。
    カズクモさんとは、多少ならず接点が私にもありました。シロタエ様は、お気を病んでいる様子でしたので、   

    深くは聞かなかったとお師匠様がおっしゃっていました。どうか、教えていただけませんか?
060次郎:……えっと。その、カズクモさんが堕落した時のことは、僕もほとんど知らないんです。

    ただ、飛行機を一機墜落させたという話だけ。
061一梅:飛行機?……もしや、敵の戦闘機では?
062次郎:シロタエ様は飛行機と仰っていましたが、僕もおそらく、敵の戦闘機で間違いないと思っています
063一梅:そんな……。なんてことを
064次郎:ああ、あと。カズクモさんは僕に最後に会ったときに「大切なものを守りに行く。シロタエ様を宜しく頼む」  

    と言っていたような。
065一梅:大切なもの……。そうですか。余程、大切なものだったのでしょうね
066次郎:カズウメさん?
067一梅:いえ、なんでもありません。……アカネビ様の方が終わるまでは、まだ暫(しば)し時間がかかりそうですね。
    ふむ……。不本意ですが、ワタジロウさん。私に聞きたいことはありますか?
068次郎:え!?
069一梅:いいから。失礼な質問をしてしまいました故、不公平は私が満足しないんです
070次郎:え、えーっと……
071一梅:くだらない質問だったら怒りますよ?
072次郎:ひえっ!?……じ、じゃあ、アカネビ様の事はどう思ってるんですか?
073一梅:アカネビ様?どうしてそんな事を聞くんです
074次郎:ひっ!怒らないでください!そ、その!ずいぶんアカネビ様を、お慕いしているんだな、と思いまして!
075一梅:……意外と鋭いんですね。……アカネビ様は、師が堕落し、忌々しい契約のせいでともに堕落しかけていた私を   

    救ってくださった。師匠である上に、恩人であるアカネビ様を御守りして、何が悪いんです?
076次郎:え?
077一梅:神の御傍(おそば)に仕える者として、それが役目ではないのですか?私は何か間違っていますか?
078次郎:いえ!?
079一梅:ふん。……アカネビ様の方も終わった様ですし、この話は御仕舞です。こちらへいらっしゃいます。

    そこの棚の本を取ってください。
080次郎:こ、これですか?
081一梅:ええ。私と貴方は、アカネビ様のお話が終わるまで、薬草について勉強していました。わかりましたね?
082次郎:え!あ、は、はい!

 

 

20161107仮完成
20161121修正
20170409番号・修正

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