龍の泪 2話
《世界観》
・背景は第二次世界大戦末期(1945年)の3月頃の日本のお話。※フィクションです
・人間の住む世界と龍神達の棲む世界とは同軸。
・竜=西洋竜(翼がある)/龍=東洋龍(蛇のよう)
・人間の姿で生活している。
《これまでのあらすじ》
茜陽と一梅の神社に白妙と綿次郎が訪ねてくる。
白妙は、堕落してしまった己の一の弟子の罰として、御水が濁り、目が見えにくくなっていた。
茜陽は何故弟子が堕落したのか聞こうとしたものの、憔悴している白妙の様子に口をつぐむ。
しかし白妙は、人間の戦争に対して龍神が関与してよいものか悩んでいた。それを茜陽は諭し、様子を見るように収めた。
そして、半人前の綿次郎と共に白妙は帰路についた。
《用語》
・御守り:龍神の鱗が入った御守りは、龍神の加護を得ることができる。しかし効果は一度きり。
・御水(おんみず):龍神がそれぞれ宿るもの。この水が濁ると宿っている龍神の身体に異常をきたす。
枯れてしまうと龍神は天に還る。
《登場人物》
茜陽(あかねび)♀
龍年齢:約700歳 人年齢(外見):25歳位
神社に棲んでいる。めんどくさがりだが、その神通力はかなり強く、周囲からは恐れられている。
師匠から薬草の知識を受け継いでいる。
一梅(かずうめ)♀
龍年齢:約420歳 人年齢(外見):16歳位
神社に棲んでいる。茜陽の一の弟子。生真面目だが、茜陽の事になると盲目になる。
喜怒哀楽が割と激しい。
小夏(こなつ)女 人間
年齢:13歳
夏枝の娘で、茜陽たちが見える。大人っぽい性格だが、年相応に泣き虫な一面も。
《用語等》
夏枝(なつえ)女 人間 :小夏の母で、昔は茜陽たちが見えていた。感受性豊かで温和
茜陽♀:
一梅♀:
小夏♀:
001一梅:さて、お掃除終わり!絵馬を見に行きましょうか。……最近は、絵馬なんて買う人は殆どいませんが、
一つ一つの願い事が大きく重くなってきていますからね。目を離そうものなら、大惨事になりかねませんもの。
……さて、新しく増えた絵馬はどれかしら?
002小夏:あの、すみません
003一梅:あった。1、2、3、4
004小夏:すみません、お姉さん
005一梅:ん?
006小夏:御守りを買いたいのですが
007一梅:まさか、私が見えるの?
008小夏:お姉さんは、この神社の巫女様ですか?
009一梅:え、ええ、まあ
010小夏:なら、御守りが欲しいんです!母に言われてきました。兄に渡すための御守りをください。
011一梅:御守り?それなら……って、神主様は、えっと、どうしましょう
012小夏:兄はつい最近、赤紙がきて徴兵されました。
それで、今度戦場に行かれるそうなので、御守りを頂きに参りました
013一梅:戦争に?それは……
014茜陽:カズウメ!遣いを頼まれてくれぬか?
015一梅:お師匠様
016茜陽:なんじゃ?その童(わらし)……ほほう、私らが見えておるのか
017小夏:わぁ!きれいなお人
018一梅:師匠、この子は御守りを買いに来たそうです
019茜陽:そうじゃったか。生憎と神主様は今、居(お)らぬのじゃ
020小夏:何時(いつ)ごろに、御帰りになられますか?
021一梅:……だいぶ前に、神主様は疎開されているの
022小夏:どうしよう。えっと、母が、どうしても今日頂いてきなさいって。
兄が戦場に行く前に届けるには今日しか駄目だって。兄様(にいさま)の無事を、お願いしたいの。
私の、たった一人の、兄様(にいさま)なんです!
023茜陽:泣くな童よ。ああ、泣くでない……大丈夫じゃ。なんとか出来なくはないぞ
024小夏:本当ですか?
025茜陽:まあ、そこに座りなさい。カズウメ、薬棚の上から3段目、右から二番目の奥にある瓶を持ってきておくれ
026一梅:え、でも!
027茜陽:カズウメ
028一梅:……分かりました
029茜陽:(小夏の隣に座る)よいしょっと。お、泣き止んだか童
030小夏:……
031茜陽:大丈夫じゃ、私が何とかしてやる。……その代わり、お前の話が聞きたいのじゃ。
032小夏:話?
033茜陽:そうじゃ。お前の事を聞かせておくれ?
034小夏:……知らない人と話をするな、ってお母さんが。
035茜陽:あっはっは!そうか!私はな、この神社の神じゃ。
036小夏:か、神様!?
037茜陽:左様、誉れ高き龍神じゃよ
038小夏:龍神様!?
039茜陽:ああ、怖いか?
040小夏:怖くない……です
041茜陽:ふふっ。そうか、ありがとう
042小夏:……母が昔、「この神社でとても美しい人に会った」って言ってました。
「赤い髪で、とても美しい着物を着た女の人だった。きっと人間じゃなくて神様だった!」
って父に言っていました
043茜陽:ほう、母親の名前は何と言う?
044小夏:……ナツエです
045茜陽:ふふふっ。それは間違いなく私じゃな。
ナツエも私達が見えておったようでのう、よく一緒にかくれんぼをして遊んだものじゃ。
ナツエは、今は何をしておるのか?
046小夏:母は軍の工場で、朝早くから働いています
047茜陽:軍、か
048小夏:はい。父は陸軍へ、兄は海軍にいます
049茜陽:と、するとナツエとお前は二人暮らしなのか?
050小夏:そうです
051茜陽:……そうか
052小夏:別に、普通です
053茜陽:……戦争のせい、なんじゃろうな
054小夏:御国の為です。贅沢は要りません
055茜陽:……
056一梅:お師匠様、お持ちいたしました
057茜陽:……ありがとうカズウメ。童、名はなんという?
058小夏:コナツです
059茜陽:そうか。コナツ、少しだけ目を瞑りなさい
060小夏:?はい
061茜陽:良いと言うまで、目を開けてはいけないよ。よし、いい子だ……
062一梅:お師匠様、やはり私ので十分では!?
063茜陽:カズウメ。……よし、袋を出しなさい
064一梅:はい
065茜陽:コナツ、掌を上に向けて開きなさい
066小夏:?
067茜陽:大丈夫だ。ほら、目を開けていいぞ
068小夏:わあ!茜色のきれいな御守り!
069茜陽:ふふふ、大事にするんじゃよ
070小夏:ありがとうございます!お代は?
071茜陽:お前の、家族を想う気持ちだけで満腹じゃよ。
その兄に、くれぐれも御守りを、肌身離さぬように伝えておいておくれ
072小夏:ありがとうございます!母もきっと、喜びます!兄もきっと、きっとご無事で帰ってきてくれると思います!
073茜陽:そうか、良かった
074小夏:ありがとうございます、神様!
075茜陽:ああ、気を付けて帰るんじゃよ
076小夏:はい
077一梅:……
078茜陽:カズウメや、そう怒るな
079一梅:今時、あんな願い事なんて世の中にごまんとあります。なにも鱗まで渡さなくても
080茜陽:そうじゃそうじゃ、全くじゃのう
081一梅:茶化さないでください!
082茜陽:はは、相変わらず優しいの、カズウメは。どうやら私は、シロタエのやつに感化された様じゃ……
ただの童に、鱗の入った御守りを渡すなんぞ、内心私も驚いておる所じゃ
083一梅:……もう!
084茜陽:そうそう、忘れておった。この薬をシロタエのところに届けてやってくれぬか?
085一梅:薬?
086茜陽:ああ。これを煎じて冷まし、御水(おんみず)に流せと伝えておくれ。
これで目も少しだけ見やすくなるじゃろう
087一梅:はい、わかりました
20161209番号・修正
20170409修正
20170604修正