top of page

《世界観》
・背景は第二次世界大戦末期(1945年)の3月頃の日本のお話。
・人間の住む世界と龍神達の棲む世界とは同軸。
・竜=西洋竜(翼がある)/龍=東洋龍(蛇のよう)
・人間の姿で生活している。

《用語》
・水(みず):水筒や水盆に水を入れて他の龍神の名を呼べば、相手の姿が映し出されて会話ができる。
・弟子:弟子はそれぞれ「一の弟子」「二の弟子」「三の弟子」となり、一の弟子が一番上の要するに一番弟子。
・ツノ:龍神にとっては力の象徴であり、神通力の扱いに長けるほど立派になる。

    尚、天に剥奪されてしまうとただの水に還ってしまいます。
    また、人型でツノを他の龍神に見せると威嚇行為になってしまう。

 

《登場人物》
白妙(しろたえ)♂
龍年齢:約700歳  人年齢(外見):25~30歳位
川に棲んでいる。生真面目な性格だが、悩み事を一人で抱え込む癖がある。

茜陽(あかねび)♀
龍年齢:約700歳 人年齢(外見):25歳位
神社に棲んでいる。めんどくさがりだが、その神通力はかなり強く、周囲からは恐れられている。
師匠から薬草の知識を受け継いでいる。

一梅(かずうめ)♀
龍年齢:約420歳 人年齢(外見):16歳位
茜陽の一の弟子。生真面目だが、茜陽の事になると盲目になる。
喜怒哀楽が割と激しい。

綿次郎(わたじろう)♂
龍年齢:約300歳 人年齢(外見):14歳位
白妙の二の弟子。正義感にあふれているが臆病で、白妙様は怖い。
弟子になってから日が浅い。

 


一梅♀:
茜陽♀:
白妙♂:
綿次郎♂(♀):


※下記は兼ね役の際の参考にしてください。組み合わせはご自由に
一梅♀:
茜陽♀・綿次郎♂(♀):
白妙♂:

 

001一梅:師匠、カズウメです
002茜陽:お入りなさい。……ここ最近は参拝者も多い。絵馬の様子を聞きたかったんじゃがのう。

    忙しかったろうに、すまないね。絵馬は最近どういった様子じゃ?
003一梅:いえ、問題ありません。……絵馬の方も、相変わらずでございます。

    「日本が戦争に勝ちますように」だとか「父が無事戦争から帰ってきますように」といった具合の

    願いが殆どです。
004茜陽:そうだろうな。……今日も沢山の戦闘機が、空を飛んでおる。
     なあ、カズウメ。ここのところ我が国の軍配はどうじゃ。政府は何と民に述べておるかの? 
005一梅:相変わらず劣勢です。民衆には被害を隠しておりますが、それも最早意味を成しておりません 
006茜陽:ははっそうか。まるで、幼子が己のしでかした悪事を、隠すような態度じゃな。

    ……他者の命をも弄ぶ姿は、到底幼子では収まらぬ性質(たち)の悪さじゃがの。 
007一梅:あと。先ほど連絡が入りましたが、シロタエ様が只今こちらに向かわれている様です 
008茜陽:シロタエが?要件は何と? 
009一梅:はい。今からそちらに向かう、とだけ聞いております 
010茜陽:また、下らぬ世間話や説教でも説きに来たか。……相(あい)も変わらず暇な奴じゃな。
     まあよい、カズウメも手が空いたらで良い、顔を見せておやり 
011一梅:分かりました 

012一梅:シロタエ様がお着きになられました 
013茜陽:……はいよ。さっさと入りな、シロ 
014白妙:失礼する。……なんだ、今日は寝転がっていなくていいのか? 
015茜陽:お前こそ、今日はお気に入りの白い背広ではなくてよいのか? 
016白妙:あほぬかせ。そんな恰好をして外を歩けば、「どこの非国民だ」と言われるぞ 
017茜陽:そうじゃのう。その外見であれば徴兵されて、今頃は戦地にいるのが普通じゃな。
     おや、お前は付き人も連れて来(こ)ずして、ここまで来たのかえ? 
018白妙:ん?いや、連れてきたはずだが。……ワタジロウ? 
019茜陽:ほう。私の目に見えぬほどの、稚児(ちご)を連れて歩くほど、お前も堕落したか? 
020白妙:あやつが、まだ半人前なのは肯定する。つい一週間前にやっと、人型になれるようになった奴でね。
       まだ気を抜くと、ツノが現れてしまう始末だから、今日は帽子をかぶせてきたんだが 
021茜陽:ふうん、水盆ならそこにあるぞ
022白妙:いや、生憎あやつに水を持たせていないんだ 
023茜陽:ほう、なにゆえその様な間抜けな真似をしたのじゃ 
024白妙:少々、いや、かなり鈍くさいやつでね。

    人前で水に大声で話しかける姿が、ありありと目に浮かぶもんだから、まだ持たせていなかったんだ。

    今のご時世、我々のような生きものは、一挙一動が己の死に繫がるだろう?その方がいいと思ってね 
025茜陽:今のご時世、と言うよりかは昔から。

    人前での一挙一動は、すべて、己の生死に関わってきたであろう?何を今更 
026白妙:生憎様(あいにくさま)、お前のようなご神体(ごしんたい)を儂らは授かってないんでな。

    今の不安定な世の中じゃあ、何が起きてもおかしくはない。
      儂らを感じ取れる輩(やから)がすべて友好的ではないのは、神社住まいのお前も知っているのではないのか。
027茜陽:ああ、もちろん知っているぞ。仕方ないのぉ、カズウメ! 
028一梅:……お呼びでしょうか、師匠 
029茜陽:シロタエの付き人が道に迷っておるようじゃ。
      ……大方、この山の中で迷子になっておるじゃろうて、迎えに行っておやり 
030一梅:わかりました。では、至急探しに行ってまいります 
031茜陽:頼んだぞ。……ん?そういえば、お前の一の弟子は何をしておるのじゃ?ついこの前会(お)うた時も、
      まだおぼこい顔をしておったように覚えておるが。もう巣立ちおった訳ではなかろうに。 
032白妙:……あいつは、堕落した 
033茜陽:堕落した!?……一体何があった、私の耳には届いておらぬぞ 
034白妙:もうツノも剥奪されて今はただの水たまりだ。……これ以上聞くのはいくらお前でも勘弁してくれ 
035茜陽:しかして、お前も罰(ばつ)を受けたのじゃろう?そうでなければ出歩けぬ筈じゃからな 
036白妙:ああ、もちろん受けたさ。儂の御水(おんみず)を濁されてしまってな、目が霞かかってしまって、

    一時(いっとき)は人型(ひとがた)にすらなれなかった 
037茜陽:なっ!そんな状態で、まだ完璧に人になれぬ半人前を連れて、私を訪ねてきたのか。
      よほど大事なことがあったのか?であればもっと早く連絡せい!

    いくら私でも迎えにカズウメを寄越すくらいはしたぞ!
      ……でなければ、私の知る以上にお前は阿呆(あほう)だったのか? 
038白妙:阿呆さ。儂はどうしようもないくらいの阿呆(あほう)だ 
039茜陽:……はぁ、要件はなんじゃ
040白妙:ここのところの戦況についてだ。お前も知っているだろうが、我らが大日本帝国は、

    徐々に良くない方向へ歩き始めている 
041茜陽:日本、と言え。その様な仰々しい名前はどうにも好かん
042白妙:……数え切れないほどの死者や怪我人。果ては餓えまで顕著(けんちょ)になった。

     おまけに、我ら龍神の源の一つでもある水までも、血で濁り爆弾の熱で干上がる始末。 
043茜陽:で、私に、戦に手を貸せと?ふざけたことを抜かすでないわ、たわけ者が。
       国の頭(かしら)同士が、陳腐(ちんぷ)な理由ではじめた下らぬ喧嘩じゃろうて、

    この龍がどうして関係してくるのじゃ 
044白妙:なにも、戦の先頭をきれとは言ってない。お前がほんの少し手を動かすだけで、

    どれだけの人が救えると思っているんだ 
045茜陽:お前の御水(おんみず)はまだ無事なんじゃろ?少し濁っているだけで 
046白妙:…… 
047茜陽:ならば、お前の神通力で、哀れな人間共に水を恵んでやればいいではないか。ああ、それで大団円! 
048白妙:もういい。はあ……お前にはかなわんな。正直に言おう、悩んでいるんだ 
049茜陽:ほう 
050白妙:儂ら龍神が、水を湧かし、浄化する。更には、海を往(ゆ)く軍艦どもの、守り神として動けば、

    事は簡単になるだろう。しかし、お前の言った通りだ。人間の争いに儂らがしゃしゃり出ていいのか?

    確かに、戦況が悪化するにつれて神頼みも増えてきた。だが……。

    龍神として神として、人間を救うのが、願いを叶えるのが儂らの今すべきことなのか? 
051茜陽:成る程な、良い悩みだ。して、私はその悩みの答えをもっておる 
052白妙:どういうことだ 
053茜陽:至極簡単なことじゃのう。まあ、私が言わずともお前は考えればわかるはずじゃ 
054白妙:……
055茜陽:そんな顔をするでない。……そうじゃのう。私がお前だったら、もう少し様子をみると思うぞ。
        一度落ち着け、シロタエ。私らの師はなんと言っていた?

     考えずして、一時(いっとき)の感情で動けと言っておったか?私はそんな教えを受けた覚えはないぞ。
056白妙:……ああ、そうだな。 
057一梅:失礼いたします。シロタエ様の付き人をお連れしました。 
058次郎:へぇ、凄い!お社ってこんな感じなんだ 
059白妙:はぁ、ワタジロウ
060次郎:あ!師匠!やっと会えた 
061白妙:馬鹿者。帰ったら覚悟しろ。
062次郎:ひっ 
063茜陽:ふふふ、お前がシロタエの二の弟子かや?
064次郎:あっ!は、初めまして。僕は、シロタエ様の二の弟子の、ワタジロウと申します。

    お手数おかけして申し訳ありませんでした 
065茜陽:うむ、礼はカズウメに言っておやり。ふむ。お主、可愛い小さなツノが、見えておるぞ 
066次郎:えっ!?あ! 
067白妙:馬鹿者!すまないな、見苦しいものをお見せした。ほら!お前も謝れ 
068次郎:ひぇっ!すみませんでした 
069茜陽:ふふ、おもしろい弟子じゃないか。しっかりと教えてあげな。カズウメも、そう怖い顔をするでない。

    私はこんな些細な事、気にしておらぬぞ。 
070一梅:……失礼しました、気を付けます 
072白妙:なあ、アカネビ 
073茜陽:ん、なんじゃ? 
074白妙:お前は相変わらず二の弟子をとらぬのか? 
075茜陽:いつものごとく天から催促されて、たまに教えようとするがのう。

    ……なにぶん私も教えるのが苦手でな、中々うまくいっておらぬのよ 
076白妙:……そうか。難しいものだな 
077茜陽:そうじゃのう 
078白妙:さて、帰るぞワタジロウ 
079次郎:へ、もう? 
080白妙:生憎、お前が山で迷っている間に、話は終わったんでな。では、また連絡する 
081次郎:えっ 
082白妙:ワタジロウ 
083次郎:お騒がせしました! 
084茜陽:ああ、来るなら今度はもっと早くに連絡しな。気を付けて帰りなさい。

    ……お主も、師匠の傍から離れるでないぞ? 
085次郎:はい! 
086白妙:ありがとうな、アカネ 
087茜陽:ふん……さっさと帰れ。カズウメ、見送っておやり 
088一梅:はい。

20160910 修正
20161209 番号・修正

​龍の泪 1話

bottom of page